Review
人と建築が共生できるまちづくりの軌跡
評:神子久忠
初出:『建築士』2025年6月号
わが国建築界に北山孝二郎の名前を驚かせたのは、ピーター・アイゼンマンと協働した「コイズミライティングシアターIZM」(1990年)である。デコン派建築家の建築が、秋葉原に登場したのである。北山初期の作品である。
その北山が本書の「あとがき」で、苦楽をともにしてきた伴侶が、この作品を見ずに2021年に亡くなったこと。1981年大阪で設計事務所を設立、1983年東京に事務所を移転、この間、多くの助言、支援をしてくれた二人の兄に感謝したいと述べている。
本誌2022年4月号「この人に聞く」をご覧願いたい。北山は二人の兄のことを控えめにいっている。一卵性双生児の安藤忠雄と北山孝雄のことである。安藤については、もはや説明はいらないだろう。
総合プロデューサー、商業コンサルタントの北山孝雄は、「地域活性化とデザインプロデュース」で第53回「毎日デザイン賞」(2007年)を受賞している。3人ともすぐれたアーティストである。
本書は、そうした近親者への感謝の気持ちと同時に約40年に及ぶ作品をまとめたもの。「ベイサイドプレイス博多埠頭」(1991年)、「ピナウォーク海老名」(2002年)、「横浜ベイクォーター」(2006年)などはお馴染みだ。そして「草津温泉再整備計画」(2013〜2021年)、「豊橋市 emCAMPUS EAST」(2021年)、最近できた「豊橋市 emCAMPUS WEST」(2024年)などがある。この2作品は再開発である。「草津」はよくテレビ放映されるが、それが北山の仕事だとほとんどの人は知らない。10年を超えるきめ細かい再整備計画は、いまも継続中である。だから、本書の巻頭に置かれている。
こうしたさまざまな作品のキーワードが、人とまち、景色を「つなぐ」である。具体的には海、川、湖、山、駅、道、緑など多彩である。原点は事務所設立前に従事した海外の仕事である。厳しい気候状況のなかでも、人びとは暮す。そこで見出したのが、屋外や半屋外を居住空間とつなぐことだったと述べている。
しかし「つなぐ」は、これからどうなるのだろうか。経験したことのないコロナ禍に遭遇した。あるいは地球規模の気候変動が起きている。それらはかつての経験値では解決不能にしている。建物も、これまでの標準数値では建たない。かつての「つなぐ」は効力を失い、新たな発想が求められるのではないかと危惧する。
北山は「大きな信念をもった力強い考えと、それと真逆の日々のなかから生まれた地域のあり方を、どうつなぐのか。難しい時代になってきている。」と述べている。おそらく建築やまちづくりに関わっている建築家たちは、同じ思いでいるだろう。そのヒントの多くを、この作品集は教えてくれる。